海外で「I love you」はよく使われる言葉。夫婦や恋人、親子の間ではもちろん、友達同士でも言う。若い頃、私はその意味を本当に分かっていないと感じていました。

カナダ政府のこども家庭庁でソーシャルワーカーとして働いていた時、虐待やネグレクトされている子供たちを守るために、私は様々な親子や家族と関わりました。親の多くはアルコールやドラッグに依存していたり、DVやメンタルヘルスの問題を抱えていました。凄まじい状況に直面し、ストレスで仕事を休んだり辞める同僚がたくさんいたので、新米ソーシャルワーカーの私には大量の仕事が降りかかってきました。その中の一人が14歳の少女J。とても恰幅がよく、私よりもずっと大きくがっしりしていました。里親への暴言、暴力、家財を破損、窃盗など、Jはあっという間に何軒もの里親を追い出されました。警察や少年少女鑑別所にもお世話になり、私が担当していたコミュニティでJを受け入れてくれる里親はなくなり、保護監察官を通して遠くの里親やグループホームを転々としました。

親が依存症や犯罪者、暴力を振るう人であっても、愛されていると感じて育った子供たちに比べ、親に愛されずに育った子供たちの傷はとても深い。姉弟は親と暮らしているのに、自分だけ親から拒絶されたJ。愛を求めながらも、これ以上傷つくことを恐れ、人に愛されることを恐れ、誰をも寄せ付けない。彼女の心はやるせない気持ちと怒りで一杯でした。そして、その矛先は頻繁に私に向けられました。それでも、いつも彼女のためにいてあげた、というより、それしかできなかった私でした。

通常ソーシャルワーカーはその地域に住む子供たちや里親を担当します。でもJは余りにも転々とするので、どの地域も彼女のファイルを引き継ぎしてくれませんでした。彼女がトラブルを起こす度に、私は片道3時間もかかるような遠くの里親やミーティングに、必ず駆けつけました。人手不足とストレスで溺れそうになっていた私は、Jさえ私の担当から外れれば、どれだけラクになるだろうと思っていました。

あっという間に２～３年がたち、遂に「Street Youth Unit」-　ホームレスの青少年を担当するオフィスがJのファイルを引き継いでくれることになりました。分厚いファイルを何冊も抱え、Jと一緒に新しいソーシャルワーカーに会いに行きました。その後、地下鉄の駅でJとお別れをして、彼女が人混みの中へと立ち去っていく後ろ姿を見て、私は咄嗟に大声で「J！, I love you!!!」と叫びました。Jは恥ずかしそうな顔をして振り返り、手を振りました。

これが「I love you」、心から自然に出てきた、大声で叫んだ言葉。

私の担当ではなくなっても、Jとは時々連絡を取り合っていました。Jは度々「ねえ、友達が困ってるの、話を聞いて助けてあげてよ」と私に電話をしてきました。あるときJが「Rieko, また私のソーシャルワーカーになってくれない？」と言いました。私は笑いながら「あなたのおかげでどれだけ私は悩んだことか」と言うと、Jは「それは私のセリフ。あんたは新米のソーシャルワーカーで何も知らないから、私は苦労したわよ。あんたにいろいろ教えてあげたでしょ。」確かに彼女の言うとおりでした。

そんなJも無事に成人して、施設での生活から独立しました。ある時、大きな会議に参加したら、一人のソーシャルワーカーが私に声をかけてきました。「あなたがRiekoね。私はJの最後の担当をしていたの。あの子、凄い子だったよね、まるでギャングみたい。でもJはいつもあなたの話をしていたわよ。」

笑ったり泣いたり、いろいろな体験を共にしながら、かけがえのないことを教えてくれたJ。心からの感謝と共に、今も逞しく生きていることを祈っています。